木村明子さん連載、今回は「調布」を散歩
消しゴムはんこ作家・木村明子さん(くま五郎本舗)の連載「木村明子のさんぽではんこ」をお届けします。(毎月18日頃更新予定)
布団から出る時に勇気がいる季節となりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。千葉県を拠点に活動している消しゴムはんこ彫り、木村明子と申します。
「木村明子という人物が各地を散歩してはんこを作る」というこの連載、今回はお仕事仲間と共に東京都調布市を巡ってまいりました。なぜ調布市に行く事になったのかに関しては紆余曲折があったのですが、最終的に「妖怪と人間が共存できる世界を望む縞のちゃんちゃんこが素敵なアイツ」を見に行こう!!という謎の盛り上がりを経て調布市に決まりました。調布市は、「妖怪と人間が共存できる世界を望む縞のちゃんちゃんこが素敵なアイツ」がアツい街のようなのです。なぜ「妖怪と人間が共存できる世界を望む縞のちゃんちゃんこが素敵なアイツ」という持ってまわった表現をしているかというと、それは「大人の事情」という言葉を使うより他ありません。色々と察していただけましたら幸いです。
さて、私たちが京王線調布駅に着いたのは午前10時半近くの頃でした。調布駅近くに「妖怪と人間が共存できる世界を望む縞のちゃんちゃんこが素敵なアイツ」と仲間達の銅像がある商店街があります。商店街に着いた我々はそれぞれ愛用のカメラやスマホを手に「妖怪と人間が共存できる世界を望む縞のちゃんちゃんこが素敵なアイツ」と仲間達の銅像を撮りながら先に進みました。商店街を抜け、しばらく進むと「大正寺」の門前に「小坊主さんがほうきを持っている像」がありました。「十難掃出地蔵」という像で、「調布七福神」のひとつとのこと。ほうきを持って立つ様子がとても可愛く微笑ましいので、またみんなそれぞれ撮影を楽しみました。
ところで今回彫った消しゴムはんこの図案は「掃出地蔵」の写真を見ながら描きました。ただ、何度描き直しても「掃出地蔵」に似ず、「朝のお勤めに励む生身の小坊主さん」にしか見えないのです。煮詰まった頭を切り替えるべく、しばらく別の作業をしてみたり、何なら1日しまいこんで次の日に見てみたりしたのですが、やっぱり生身の小坊主さんに見えます。ある時、うっかり「名前をつけるなら珍念だな」と思ってしまいました。それからはもう思考が止まらず「珍念、13歳。今の楽しみは週に1度食事に出てくる豆腐料理」などと考えてしまい、もう彫らないわけにはいかなくなるくらい情が移ってしまいました。
今回の消しゴムはんこを「掃出地蔵」と見るか「珍念、13歳」と見るかは皆様にお任せいたします。
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さて、そんな素敵な珍……、「掃出地蔵」がある「大正寺」を出て更に進むと「布多天神社」が見えてまいりました。ここの境内は大きな木がとてもたくさんあり、涼しくて気持ちのいい空気が流れていました。今回、私は何度も一緒にお出かけしている方に「巨木マニア」と名づけられました。毎回、巨木を見ると喜んでいるからとのこと。というわけでこの日も辺りに立つ巨木を見上げては「ああいいわぁ、これもいいわぁ」とつぶやくちょっぴり危険な人となっておりました。
私がなぜ巨木好きなのかと言うと色々な理由がありますが、1番に挙げられるのはやはりあの「揺るぎなさ」だと思います。日々揺らぎ続けている私にとって、深く根を張り立つ彼らの生き方には尊敬の念すら抱いております。また、彼らはその大きな体でたくさんの人を日差しから守り、雨を防いでくれる強さを持っています。できることなら毎日でもふれ合いたいナイスガイです。立ち並ぶ巨木に囲まれながら「こんな場所が近所にあればなぁ」としみじみと思いました。
そんなマニア心を満足させながら境内を歩き、お参りをし、おみくじをひいたりしてからこちらを後にした我々は調布駅に戻り、バスに乗りました。次の目的地は同じ調布市にある「深大寺」です。バスに乗ってしばらく進むと大きな「植物園」がありましたが、この日は月曜日のため定休日でした。深大寺前のバス停に停まりますと、降りてすぐに「妖怪と人間が共存できる世界を望む縞のちゃんちゃんこが素敵なアイツ」のお茶屋さんがありましたが、ここも月曜日は定休日とのこと。外観も素敵で外から見える店内にも素敵な商品が並んでいます。「いいなぁ、いいなぁ」と付近をうろうろしながら、私たちは再びこの地を訪れることを約束し合いました。今思い出しても素敵なお茶屋さんでした。
ところで深大寺と言えば蕎麦が有名です。ただこの日、植物園と同様に定休日の蕎麦屋さんが多く、若干寂しい雰囲気でした。その中でも営業している蕎麦屋さんに入り、堪能することができました。しゃっきりとして実に美味しい蕎麦でした。
深大寺の周りには湧き水が豊富に流れています。普段住んでいる街中では巨木はもちろん「きれいに流れる水」にもあまりお目にかかれません。「もし今季節が夏だったら、私は人目もはばからず服を脱ぎ、水に飛び込んでいたことでしょう」と思いながらさらさらと流れる湧き水を眺めておりました。私のためにも、そして何より周りにいた方々のためにも、季節が夏ではなくてよかったと思います。
深大寺でおまいりをし、境内を歩いておりますと、同行する皆さんが辺りの景色の写真を撮り始めました。私は写真が苦手です。でも「素敵な写真を撮りたい」という思いは常に持っております。そこで、皆さんの真似をして「地面に落ちるどんぐり」などを撮ってみました。角度を変え、位置を変え、地面に接するくらい身を低くしたりなど色々してみたのですが、いくら撮っても「地面に落ちるどんぐり」は「地面に落ちるどんぐり」にしかならず、自身の写真センスのなさに改めてがっかり致しました。いつか「地面に落ちるどんぐり」を「芸術性のある地面に落ちるどんぐり」に昇華できたらと思います。
深大寺を出て周りにあるお茶屋さんやお土産屋さんを覗いておりますと、信楽焼きのたぬきがたくさん並んでいるお店がありました。このたぬきが何と言いますか、みんな「ぶりっ」とした顔をしているのです。その顔を歳若い娘さんで表現しますと、「重い荷物を持ちたくないから付近を歩く男性にお願いしようとたくらんでいる時の上目遣いな顔」といった感じです。ただ、同行する方が撮った写真をモニター越しに見ると途端に「ぶりっ」と感が消えるのです。先ほどの娘さんで表現すると「私の願いは世界平和ですと本気で思っている時のすがすがしい顔」といった感じです。私たちが「不思議!!」「なんでだ!!」などと騒いでいると、後ろを通りかかった見知らぬご婦人までもがカメラを覗き込んで「本当ね~」とおっしゃっていたので、私たちの見立てはたぶん間違っていないと思われます。
もちろん、カメラを通さない「ぶりっ」としたお顔も十分に可愛らしかったです。もし我が家が広ければ購入してしまっていたかもしれません。信楽焼きのたぬきにあれだけの可愛らしさを加えられる技術に大変感動致しました。
深大寺を十分に楽しんだ我々は、再びバスに乗って吉祥寺駅へと向かいました。吉祥寺は私にとってなじみのある街になりつつあります。「運命付けられた方向音痴」と言われる私が案内できる数少ない街なので、同行の皆さんをいくつかのお店にお連れしたりしました。そして最終的に吉祥寺駅に戻り、私たちは家路へとついたのでした。
今回の散歩は「自然」と「水」に囲まれた楽しいものとなりました。そして新たなる「巨木マニア」という称号を得ることができました。もしこの連載をお読みの方で「巨木マニア」の方がいたならば、ぜひおススメの巨木をお教え下さい。都内であればぜひ行かせていただきたく思います。
ではまた!!
今回のお散歩:12,150歩
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