アートナイフプロ 細部の検証

 消しゴムはんこ作家のみならず、多くのハンドクラフト作家の方に愛用され支持されている「オルファ アートナイフプロ」
 前編では実際に使っていただいた感想をご紹介しましたが、今回は本体構造の詳細、アートナイフプロのバリエーションモデル、そしてライバルとなり得るかもしれないモデルなどをご紹介したいと思います。


構造と口金部分

 刃を固定する口金部分①は二分割となっていて、間にU字型のバネ②を挟み固定する構造となっています。これは、刃を交換する際に口金が開きやすくなる工夫と考えられます。刃は口金内側の溝部分に装着され、垂直方向からしっかり固定するようになっています。これは、刃を水平方向から挟み込むより強固に固定できるメリットがあります。

 グリップ部分③は重量のある金属の芯にゴムが装着されていて、滑り止めとソフトな握り心地による指先の疲れにくさを考慮したデザインとなっています。また、グリップ部分の切り欠きは口金の突起と〇印部分のように噛み合うことで、口金が緩んで回転してしまうといったトラブルを未然に防ぐ設計となっています。

本体

 樹脂製の本体はとても軽量で、手に持った際に重心位置が手元に近い場所に来るようになっています。これも繊細かつ長時間の作業で疲労を軽減するための工夫と思われます。また、本体後端部には作業中に置いた際に転がり落ちることを防止するための突起があります。このような「作業者が疲れにくい・無用なトラブルを防止する」ことをデザインに盛り込んでいるあたりに、モデル名の「プロ」たる所以を感じるところです。

直線刃

 アートナイフプロの核心であり消しゴムはんこ愛好家が最も使用する直線刃は、刃先角度23度・刃幅8ミリで非常に薄く作られています(刃厚は約0.4mm)。刃幅が広いことで切断部分の有効長が長くなるため、深く彫る際や余白を落としながら彫り進める際にとても有効に機能します。また、非常に薄い刃は彫る際の抵抗を極力少なくし、スムーズに彫り進めることに最適です。

 こうして詳細に観察していくことで、アートナイフプロが消しゴムはんこ作家の方に絶大な支持を受けている理由が何となく分かったような気がしました。一言で表現するなら、「消しゴムはんこをきれいに彫るためのすべての機能が、高い次元でバランスよく備わっている」という感じでしょうか。


ライバルとバリエーション

 続いて、アートナイフプロのバリエーションモデルとライバルになり得る可能性のある製品をご紹介します。

「アレックス スラントナイフK-2」

 こちらの製品は偶然ホームセンターで見つけたもので、一目見て「刃先の角度がアートナイフプロより鋭角だ!」と思い手に入れました。実際に比較してみるとたしかにアートナイフプロ直線刃よりわずかに鋭角ですが、刃の厚さが倍以上あります。

 実際に使用した感想ですが、刃を浅く入れて彫る際は気にならないものの、深く彫ろうとすると刃の厚さがやや抵抗に感じる場面がありました。彫り味は滑らかで製品精度も高く消しゴムはんこ制作に問題なく使用できますが、メインの一本として使用するというよりも、浅く繊細な彫りを求められる部位に特化して使用する方が適していると思いました。


「オルファ リミテッドシリーズ AK LTD-9」

 「切るために、美しく」をキャッチコピーにオルファ株式会社が展開する、レギュラーモデルのひとクラス上のリミテッドシリーズにラインナップされるデザインナイフで、とても上質な意匠が施された、デザイン・機能ともに非常に優れたシリーズです。

 今回ご紹介するLTD-9は本体が金属製で適度な重量があり、グリップ部分の滑り止め加工も非常に細かい上質な仕上げとなっています。実は前回の特集でエキスパートA氏が使用していたのがこのLTD-9で、「手にした時に感じる重量感が彫る際の安定感に繋がっている」とコメントしており、この重厚感を好印象に感じる作家の方も多くいらっしゃるのではないかと思っています。
 口金はアートナイフプロと共通となっていますので、アートナイフプロの替刃がそのまま使用できる点も嬉しいですね。


「タミヤ モデラーズナイフPRO」

 世界最大級の総合模型メーカーとして名を馳せる株式会社タミヤのクラフトツールシリーズにラインナップされている製品で、本体色がブラックとなっている以外はアートナイフプロと全く同じです。レギュラーモデルには存在しないブラックの本体と星がふたつ並んだコーポレートロゴを見て『グッ』とくる方もいらっしゃるのではないでしょうか。


 シリーズでお届けしたデザインナイフ特集ですが、本当に数多くの製品がある中で長きに渡り販売を続け多くの方に支持されている製品は、相応の理由が必ずあるということがはっきりとわかりました。
 また、消しゴムはんこを長年楽しんでいる作家の方の中には「もう何年も同じデザインナイフを使っているんですよ」という方もいらっしゃいますが、お気に入りを見つけたら長期間使い続けるというのは道具としてとても嬉しいことではないかとも考えています。

 この特集が「まだお気に入りの道具にめぐり会えていない」「長く使えるお気に入りになるような道具を探している」という皆様にとって、ほんの少しでも力になれるなら本当に嬉しい限りです。


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(ライター 今福大文・2018年3月9日配信・文中敬称略)

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