木村明子さん連載、青山渋谷方面を散策

 消しゴムはんこ作家・木村明子さん(くま五郎本舗)の連載「木村明子のさんぽではんこ」をお届けします。(毎月18日頃更新予定)

 街中が赤と緑で染められる季節となりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。千葉県を拠点に活動している消しゴムはんこ彫り、木村明子と申します。

 「木村明子という人物が各地を散歩してはんこを作る」というこの連載、今回はお仕事仲間である先輩と東京都青山・渋谷方面を散歩してまいりました。


 突然ですが、私の人生において2大「体力が鬼のようにある人」がいます。それは私の夫と今回ご一緒した先輩です。

 「体力が鬼のようにある伝説」として、まず主人は「私と半日ショッピングを楽しんだ後一緒に帰宅し、その後再び家を出てジムに向かい5時間帰って来なかった」というものがあります。先輩に関しては「私と一緒に江ノ島をほぼ飲まず食わずで7時間散策した後、鎌倉で2時間過ごした」というものがあります。この日の歩数は27,000歩を超え、過労のあまり私は夜通しうなされました。


 ところで私は自身の体力のなさに不安を覚え、この散歩が行われた日より1ヶ月ほど前から毎日30分以上ジョギングをしておりました。そのため、この散歩は自身の体力を試す絶好の機会になると考えておりました。

 そんな思いを胸に秘めた私と何も知らない先輩が都営大江戸線国立競技場駅に降り立ったのは午前11時近くの頃でした。駅を出て10分近く歩くと第1の目的地であるいちょう並木が見えてまいりました。この時、当然のことながら私はまだ体力的にも余裕がありました。しかし先輩が「あそこに見えるのが〇〇だよ。一応見に行ってみる?」とさりげなく勧めてくださる建物がどう見ても200mは離れていたりして油断できません。往復で400mを一応見に行っていたら、私の体力は最後まで持たないと思われます。

 「いえ、今日はちょっとやめておきます」などとごにょごにょ答えていると、近くに「焼き物市」と書かれたのぼりが何本も立っていたので私たちはそちらに足を向けました。若い頃はちっとも興味がなかったのですが、最近陶器を見るのが好きになっております。歳を重ねてようやく「わびさび」が分かってきたのでしょうか。焼き物市をうろうろしていると、木製のスプーンが目に入りました。なかなかしっかりしてるのにお安いので「いいね、これ」などと言い合っておりましたところ、先輩が「私はこれ、戻ってきた時に買うわ」とおっしゃいました。私はその時「私たちはこの場には絶対戻って来ない(私の体力的に)」という予感を強く感じました。そのため「そうですか、私はもう買っちゃいま すね」などとさりげなく言っておりましたら先輩もその場で買ってくださいました。そしてこの後やはり、私たちがこの場に戻ってくることはありませんでした。体力がない分、第6感的な何かが発揮されたのかも知れません。


 焼き物市を出ると、いちょう並木にはそれはそれは大勢の人があふれておりました。先輩がイチョウや沿道のベンチを激写している中、私は道に落ちている葉や色づき始めた木々や写真を撮る先輩を激写したりして楽しんでおりました。ちなみにイチョウはこの時、まだ青い葉が残るような感じの彩りでした。

 いちょう並木を通り過ぎると大きな通りに出ました。この日、先輩と私には大きな目的がありました。それは、とあるパン屋さんで行われている切り絵とイラストの共同個展を見ることです。先輩によると、たった今出た大きな通りを進んで行くと曲がるべき道の道しるべがそのうち見えてくるとのこと。先輩との会話を楽しみつつ歩いておりましたが、歩けども歩けども道しるべが見えてまいりません。私のおぼろげな記憶によると20分ほど歩いたところで、先輩が目的地までの距離を調べて下さいました。それによると「あ、意外と遠いね。まだこのまままっすぐ進んで大丈夫」とのこと。私は思わず「今の時点で私の体力の8割はなくなっています」と報告致しました。先輩に「パン屋さんの店内でランチしながらたっぷ り休んでいいから」と励まされながらさらに10分ほど歩いたところで道しるべが見えてまいりました。すごくほっと致しました。

 パン屋さんで行われていた個展には、大変繊細で優しい切り絵や絵画が並んでおりました。お言葉に甘えて美味しいランチを食べながらたっぷり休み、鑑賞し、じっくり充電することができました。


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 結構な時間を過ごした後、パン屋さんを後にした私たちは渋谷駅まで向かいました。この時点で結構余裕が出てきた私は、まだまだ超余裕であろう先輩と共に渋谷駅から少し離れたショッピングビルに入りました。このビルの最上階近くに上がってお店をうろうろしておりますと、大きめサイズの乾パン(12枚入り)を見つけました。先輩はその乾パンが大好きとのこと。そういえば私の夫も乾パンが大好きです。「もしかしたら鬼のような体力の秘密を乾パンが握っているのかもしれない」と思った私は、先輩と共にその乾パンを買ってみました。

 「鬼体力強化グッズ」かもしれない乾パンを手に入れたためか元気が出てきた私は「ここから1階ずつエスカレーターを降りてビルを見て回りませんか」と提案致しました。そして実際、ビルにある雑貨屋さんなどを見て回ることに成功致しました。ジョギングを始める前の私だったらそんな提案はまずしませんし、仮にしたとしても雑貨屋さんを回る途中で力尽き、雑貨を手にしたまま倒れこんで医務室に運び込まれていたでしょう。どうやらジョギング生活によって、私の体力は「普通の人」レベルまで上がったようです。

 見事普通の人となった私は晴れやかな気持ちで帰途に着きました。先輩と私は同じ沿線に住んでおり、私の方が先に電車を降ります。先輩と別れて最寄り駅に着いた私は、駅に近い雑貨屋さんや本屋さんを経由してから家に帰りました。この時確認したところ、歩いた歩数は20,000歩に迫っておりました。1日頑張って歩いてくれた足を揉みほぐすべく湯船にお湯を入れようとした時、先輩からメールが届きました。それによると先輩は1度自宅に戻り、その後バイクに乗ってとあるショッピングセンターに行き買い物を楽しんでいるとのこと。

 「負けた」と思いました。「勝った」と思ったことは1度もありませんが、改めて「負けた」と思いました。


 その夜、お土産に買った乾パンを夫に渡しました。夫は大変喜び、晩御飯を食べた後に3枚食べ、残りは仕事用のカバンに入れました。勤務中のおやつにするそうです。

 「体力が普通の人」と「体力が鬼のようにある人」の間には、暗くて深い河があります。約1ヶ月のジョギング生活を経てようやく「普通の人」となれた私が河を渡るには「乾パン」が小船となってくれるのかも知れません。乾パンは苦手ですが、いつか「鬼のような体力」をつけられるよう、時々口にしてみようと思います。

 ではまた!! そしてよいお年を!!

今回のお散歩:19,932歩


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