木村くま五郎さん連載「マグロ」を求めて

消しゴムはんこ作家・木村くま五郎さん(くま五郎本舗)の連載「木村くま五郎の新・さんぽではんこ」をお届けします。(隔月更新予定)


雨が多い季節になりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。千葉県を拠点に活動している消しゴムはんこ彫り、木村くま五郎と申します。

「木村くま五郎という人物がどこかに出かけてはんこを彫る」というこの連載、第9回目となる今回は、マグロ三昧を楽しみに行った時のことを書こうと思います。


ある日、主人が言いました、「マグロを食べに行かないか」と。話を聞くと、とある私鉄で「3千円を出せば電車とバスに乗り放題で、マグロをふんだんに使ったランチとマグロのお土産がつく」という企画があるそうです。主人はあまり「○○へ行こう」と言い出しません。結婚後初かもしれないその申し出に、妻としては大人しく従うことにしました。

当日は祝日で、都内の駅に着いた時にはもうすでに結構な人混みでした。人混みが苦手な私はくらくらし始めていたのですが、目的の私鉄乗り場にたどりついたところ、そこにはあふれんばかりの人が切符を求めて並んでいます。即座に「帰ろう」と主人に提案したのですが、当然却下されました。覚悟を決めて列に並んで切符を手にし、別の列に並んでもみくちゃになりながら電車に乗り込みました。

いよいよマグロ三昧の最寄り駅へとたどり着いたところ、バス乗り場へと続く長い列がそこにありました。主人は「ここまで来たのだから」と、かれこれ10回はつぶやいています。たしかにここまで来たのだから、列に並ぶことが正解です。最後尾に付いた我々の後ろにも続々と人が並びます。自身もそうですが、マグロは人々を忍耐強くさせるのに十分な生き物です。


家を出てから2時間後、我々はとうとうマグロ三昧の地へとたどり着きました。当然のようにそこも人であふれています。しかも時間は昼の12時を回ったところです。マグロ三昧ランチを求める列がそこかしこにできています。その列に恐れをなした我々は、まずはお土産を求めに行きました。冷静に考えればマグロという要冷蔵のお土産を手に入れるのは帰り際の方がいいはずです。しかし我々は、そこまで深く考えることができない精神状態でした。

お土産をくれる市場を回っている間、私は手にしたパンフレットばかりを見ていました。そして主人がお店の前に立つ度に、「このお店では○○のお土産がもらえるらしいよ」と情報をささやき続けました。そのお店のマグロをほしそうなそぶりを主人が見せたら「このマグロを買います。あと、このお土産をください」とてきぱきと交渉し、短時間で主人好みのマグロとお土産ふたり分を手に入れることができました。この時の私は、敏腕秘書並みの優秀さだったと確信しています。


その後、ランチを食べるお店を探したのですが、時間が時間だけに「マグロをふんだんに使ったランチ」がすでに売り切れのお店もありました。とある大きめのお店の前を通りかかると、比較的多くの席が用意されているみたいです。そこでは店頭にファミレスのようなボードが用意されていて、名前を記入し、呼び出されるのを待つシステムのようです。すでにふらふらの私を置いて、主人が名前を書きに行きました。

呼び出し係のお姉さんによると、その時点で70組待ちだそうです。ランチを求める70組は、確実にふたり連れ以上です。ということは、そのお店でマグロを食べたいと思う人が140名以上集っているということです。これは「好きなアーティストのライブを見るために集まったコアなファン」となんら変わることのない集団といえるのではないでしょうか。

呼び出し係のお姉さんの声はとても美しく響き、晴れた空へと消えていきます。「私たちは今、ひとつとなってお姉さんの呼び出しとマグロを求めている」。そう思うと、何かを悟ったかのように私の心は穏やかになっていったのでした。


結局のところ、名前だけ記入していなくなる人も多かったので、1時間ぐらいで「マグロをふんだんに使ったランチ」を楽しむことができました。並んだ甲斐のある、とても美味しいマグロランチでした。

それからなんだかんだ色々あって家に帰ってきた我々は、手に入れたお土産をじっくりと味わいました。様々な経験をしながら得たマグロは、忍耐と努力の味がしました。

このマグロ三昧イベントは現在のところ通年やっているようなので、もし気になる方がいらっしゃったら、私に「マグロ最高」という合言葉をささやいてください。くわしい情報をお伝えしますので、ぜひともマグロ一色の時間をお過ごしくださいね。

ではまた!!

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